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    ―日曜狂想曲―


 とある日曜の朝のこと。いつもなら昼過ぎまで惰眠を貪っている俺なのだが、
何故だか今日に限って朝に目が覚めてしまった。学校が休みの日にまで我が妹の
フライングボディブレスが飛んでくる事は無いので久々のゆったりとした起床である。

「しゃーない。取りあえず朝飯でも食うか」

 時刻はまだ8時過ぎ。程よい空腹感を覚えた俺は、階下の台所へと向かうことにした。
 台所に到着すると、ちょうど朝食をとっている最中の紅羽に出くわした。
どうやらこれから部活へと向かうらしい。今更説明の必要はないかもしれないが、
紅羽は運動部に所属しているわけではない。手芸部という名前だけは文科系の部活に所属している。
こうして休日にも活動を行うほど熱心な部活なのだが、やれ不法侵入やら熊退治やら、
その実際に行っている活動内容は到底文科系とはほど遠いのが実状である。

「ありゃ、兄さん。休みなのに早起きだね。もしかして今日はデートだったりするのかにゃー?」
「バカいえ。この俺と誰がデートなんてするんだよ」

 そもそも、女性恐怖症なんてものがあるからそんな嬉し恥ずかしイベントなんて発生するわけが無い。
万が一にでもそのイベントが発生してしまったら俺の命に関って来るじゃないか。

「へ? そんなの一人しかいないじゃん」
「は?」

 我が家のリトルモンスター様は何を抜かしているんだ? この俺にそんな胸熱イベント(二重の意味で)を
持ってくる女子様が居るとでも思っているのか?

「だって、お姉さまと付き合ってるんでしょ? 兄さん」
「はぁ!?」
「ほらー。こないだだって校舎裏で抱き合ったりしてたしさー。玉の輿だよねー、兄さん。ひゅーひゅー」
「バッ、な、何でそうなるんだ! 俺は別に涼月とは何にも―――」
「もう、兄さん。そんな今更隠さなくたって平気だよー。お姉さまだったら安心して兄さんを任せられるしね」

 どうやってこの紅羽を手懐けたんだ、涼月のヤツ。物で釣っただけじゃここまで落ちる程甘い性格じゃないはず……

「でも兄さんばっかりずるいなー。私だってスバル先輩とあんなことやこーんなこと……にゃはは♪」

 顔を真っ赤にして両手を振り回す紅羽。一体どんな妄想をしていたのか、想像もしたくないな。
 しかし、このバカ正直な妹の誤解だけは解いておいた方がいいのかもしれない。
すっごい今更勘は否めないが、やはり味方は一人でも欲しいもんだしな。
それが実の妹って言うのが情けない話だが仕方ないだろう。

「あのな、紅羽……よーく聞いてくれ。俺は、玉の輿を狙っているわけじゃない。そうじゃなくて涼月は―――」
「俺の最愛の人だ、何て恥ずかしいわよ。ジローくん」

 俺の言葉を遮るだけじゃなく、自らの言葉で話の方向性をがらっと変えやがった!?
こんな高等テクを持っているヤツを俺は一人しか知らない……!!

「おはろ〜、ジローくん。紅羽ちゃん」
「どうしてここに居るんだ、涼月!?」
「お姉さま! おはようございます!」

 目の輝きが3割増しになった紅羽と、この場にいるはずがない人物を見て驚愕した
俺の言葉がほぼ同時にこの台所に響いた。学園の理事長の娘であるこの涼月奏が、
どうして日曜の朝っぱらから一般住宅であるところの俺の家の台所で仁王立ちしているんだよ!

「あら。涼月家の情報ネットワークを舐めちゃダメよ」

 そう言って涼月は右手でわっかをつくり、それを右目に当て
まるで望遠鏡を覗いているかのジェスチャーを取った。
ちなみに、左手の方はまるでDJがヘッドホンを抑えるかの用に左耳に掌をかぶせている。
 さらに満面の笑みで俺に向かってこう言ったのだった。

「盗聴・盗撮、どんとこい☆」
「犯罪だーーーー!!!」

 もう俺には叫ぶしかなかった。そもそも俺にこのお嬢様の相手が勤まるはずがないのだ。
どう考えてもコイツの方が頭がキレるので、咄嗟の口や行動なんかでは勝てる見込みがあるわけがない。
しっかりと練りに練った作戦だったとしてもまるで勝てる気がしないが。

「冗談よ。そんな盗撮なんて面倒な事この私がするわけないじゃない」
「……盗聴の方は何も言わないのか?」
「あ、紅羽ちゃん。お土産にお団子作って来たんだけど食べない?」
「わぁ! 頂きます!」
「そうですか。スルーですか……」

 これまでもずっと盗聴されていたと言う恐ろしい可能性が脳裏をよぎったが、
そこでこの件について考える事を放棄する事にした。恐らくこれも涼月得意のデタラメだろう。
いや、きっとそうに決まっている……お願いだからそうだと言って下さいお嬢様。

「ジロー。朝から疲れた表情をしているが大丈夫か?」

 卑屈な妄想で打ち負かされている間に、近衛もこの狭いキッチンにやってきていた。
その手には何かを包んだ風呂敷を大事に抱えている。

「ん? 近衛。その包みは何だ?」
「ああ、これか? 先程お嬢様がお話されていた『特製お団子』だそうだ」

 その『お嬢様特製』というフレーズが付くだけで俺には不安材料しか浮かんでこない。
それは本当に食い物なのか?

「あら、失礼ね。この私が丹誠込めてこねた餡が入っているのよ?」

 ウソくせぇ。そんな一番面倒なポジションをこのお嬢様がするわけが無い。
これはきっと何か有るに決まっている。
春からの俺の経験が、頭の中でリンリンと警告を鳴らしてやがるぜ!

「わあ! 美味しそう! いっただっきまーす」

 いつの間にか包みを開いていた紅羽が、何の躊躇いもなくその『特製団子』を口へと放り込んだ。

「んん!!」
「お、おい!? 大丈夫か、紅羽! ほら、まずかったらここへ吐き出しても良いんだぞ!?」
「すっごい美味しいよ、兄さん! ほら、兄さんも一つ食べなよ!」
「あら。ジローくん。丹誠こめて作った本人が目の前に居るのにその発言は酷いんじゃないかしら」
「ジロー……」

 屈託ない笑顔で特製団子を差し出してくる妹と、それを見つめる二つの冷たい視線。
確かに今回に関しては完全に俺が悪い。ちょっと涼月に対して疑心暗鬼に
なりすぎているかもしれないな。反省しないと。

「すまない、涼月。てっきりまた何か仕込んでいるんじゃないかと勘繰ってしまって。
 それじゃあ俺も一つ頂くとするか」

 一言だけそう謝って、紅羽に差し出された団子を手に取り口へと放り込んだ。

「ん、これは……」

 餅のもちもち感はそのまましっかり残っていて、それが中に入っているこの餡子としっかり混じりあっている。
お互いの風味を相殺する事無く、むしろ甘みを相乗させてお互いに自己主張しあっている。
 つまり、一言で言ってしまえば―――

「うまい!」
「あら、お口に合ったようで嬉しいわ」

 少しまんざらでもない表情をした涼月は、包みの中から一つ団子を取り出して自らの執事へと向き直った。

「ほら、スバルも」
「そ、それではいただきます……あ、おいしいです! お嬢様」

 何だ、近衛もまだ食べていなかったのか。それにしても小さい頃から色々習っているからなのか、
本当に涼月は何でも無難にこなすよな。

「ジローくん。褒める時はきちんと口にしてくれないと私以外には伝わらないわよ」
「お前、やっぱりエスパーか!?」
「ジローくんってば、思ってることがそのまま表情に出るんだもの」

 そんなやり取りをしている裏で、紅羽と近衛がパクパクとお団子を食べ続けていた。

「おい、紅羽。これから部活だろ? あんまり喰いすぎると後に響くぞ?」
「んぅ、わかってるよぉ〜に〜さぁん〜〜」
「ん? 紅羽?」

 俺でさえ今まで余り聞いた事の無いだれ切った声を出す紅羽。そんな紅羽の方へと振り返って見ると、
その顔は耳まで真っ赤にそまっていて、目も何だか少し座ってしまっているような気がする。
オマケにちょっと足元がふらついているような……

「ってお前酔っ払ってるのか!?」
「にゃは〜。そんなわけないじゃぁん。でもふわふわしてきもちいい〜〜」
「ダメだ。あれは完全に出来上がっている。なあ涼月。あれってアルコールか何か入っているのか?」

 それにしては酔っ払い方が尋常じゃないような気がする。それこそ、まるで炭酸飲料酔いするナクルの様に、
なにか特別な飲食物で酔っ払ってしまっているような。

「あら、予想以上の効き目ね。やっぱり紅羽ちゃんはそうだったのね」
「やっぱりお前が原因か。一体何を入れたんだよ」
「それはね……これよ」

 うふふ、とお嬢様スマイルをした涼月は懐から何か粉末状のものを取り出した。

「なんだよそれ……まさか!?」
「今ジローくんが思ってるような危険なコナじゃないわよ。これはね、マタタビよ」
「マタタビ?」

 それってアレだよな。ネコまっしぐらとかネコの弱点とか言われてる、あのマタタビ?

「そう。それを餡子の中に混ぜ合わせたのよ。
 ちなみに、お団子の表面に掛かってる白い粉も砂糖じゃなくってコレね」
「でもアレって人間には何にも無いはずだろ? あいつあきらかに酔っ払っちまってるじゃないか」
「私の家庭栽培キットで見つけたのよ。突然変異がどうとか言ってたけど、
 面白そうだったからつい調理しちゃった。 どうやらネコっぽい人もばっちり酔っ払っちゃうみたいね。
 うん、大成功♪」

 いや、大成功♪ じゃないだろ……それにそんな突然変異な植物を簡単に自宅で栽培できるわけが……
いや、あの屋敷だと何が起こるか分からない。何せあの家にはヘンタイしか住んでいないのだ。
もちろん、近衛は数には含んでいないが。

「うふふ。自分の才能が末恐ろしいわ。ねえスバル?」
「はい〜、おじょーさまー」

 涼月の言葉に反応した専属執事の声にいつもの覇気がない。
って言うか近衛、まだ食ってたのか、ソレ!?

「そうか……スバルもネコ属性だったのね……うっかりしていたわ」
「いや、前にお前近衛に猫耳つけて遊んでたよな」

 こいつは絶対に確信犯だ。間違いない。

「にゃはは〜。近衛センパーイ……あたし、何だか身体が熱くてたまりませーん」

 そしてもう一人の酔っ払いの我が妹君は、愛しのスバル様にしなだれかかっていた。

「むぅ、そうか。それはいけないな、紅羽ちゃん。さっそく服を脱がさなくては」
「えへへー。センパイ、やさしくお願いしますね」
「ああ、任せておけ」
「って待て! お前ら一体何を始めようとしているんだ!!」

 一瞬二人の間にピンクのモヤが掛かっているような錯覚に陥ってしまった。
いやいや、この二人をこのまま放っておいたらいろんな意味で不味すぎる!

「それじゃあ、センパイ。よろしくお願いします!」

 言うか早いか、紅羽は差し出されていた近衛の右腕を掴み、そのまま肘に両足を巻きつくように
飛び掛かり飛び込み腕ひしぎへと見事な連携技を繰り広げた。

「これしき!」

 対する近衛は、紅羽の技に逆らわずにそのまま力の流れに乗って前転受身を取った。
その遠心力によって紅羽の身体は簡単に近衛の腕から離れる結果となった。

「うひゃぁ! むふふ〜、やっぱりやりますねぇ、近衛センパイ」
「紅羽ちゃんこそ。無駄な動きが全くない、素晴らしい飛び込みだったぞ」

 言葉の上では褒めあう二人だったが、実際はじりじりと一定の距離を取ったまま牽制を続けている。

「膠着状態に入ったみたいね。コレは先に動いた方が不利……! 一瞬の気の緩みが勝負を決するわ」

 一気に緊迫した空気の中、突如解説役に回った涼月。いや、お前ら順応性高すぎだろう……
と言うか、今の流れからどうしたらこんな展開になるんだ。

「はぁ……取りあえずお前ら、ここだと下手すりゃ怪我ですまなくなる。やるならせめて下でやってこい」

 そう。我が家の地下には秘密の格闘場が設置されているのである。つまり、俺のトラウマの最たる原因
といっても過言ではない、忌まわしき場所である。
(と言いつつも、近頃は近衛とトレーニングするために良く利用させてもらっているのはナイショだ)

「そんな!? ジローはボクが居るのは邪魔だと言っているのか!?
 そうか……そんなに言うならボクは素直に退散させてもらう……サヨナラ!」
「あ、待ってくらさい、近衛せんぱーい!!」

 何だか派手に勘違いをして近衛が何処かへ走っていってしまった。
その後を紅羽が追いかけて行ってしまったが、何だろう。この胸に残る罪悪感は……
何か俺は間違った事をしてしまったのか?
 何となく自己嫌悪に陥ってしまった俺に、涼月はボソッと耳打ちをしてきた。
うおっ、近い、近すぎるよお嬢様!

「うふふ。これで二人っきりね、ジローくん♪」
「お前、まさかここまで計算していたのか!?」
「あら、流石にあの二人がプロレスごっこを始めるとは思いもしなかったわ。
 何か他に変な作用でもあるのかしらね」

 うわ……俺たち兄弟がいつの間にか実験動物扱いになってしまっている気がする。
実際はそこまで酷くないだろうけど、自分達と同列として見られていないような気がする。

「てっきり催淫効果で百合の花を咲かせてくれるものと期待していたのに。本当に残念ね」

 こえぇぇ。デビル涼月さん、マジで怖えぇぇぇ。

「さて、ちょっと状況がおかしくなっちゃったけどまあいいわ。ねぇ、ジローくん」
「な、なんだよ」
「さっきの二人を見ていて、何だか身体が火照ってきちゃった」
「お嬢様相手に寝技なんて出来るか!」
「そっちじゃないわよ。もう鈍いわね」

 そう言って涼月はそっと俺に寄りかかった。右手を俺の背中に回し、
左手は俺の胸の中心辺りに添えられていて……その、なんだ。
涼月のたわわで豊かな凶器がしっかりと俺に押し付けられている。
うぐっ、もう既に鉄の匂いが……!!

「あの二人に当てられたかしら。何だか胸がドキドキするの」
「お、俺もドキドキが止まらないんだが」

 もちろん、感情的な意味ではなく言葉そのままの意味で。

「ねぇ……ジロゥくぅん……」

 うぐ、近衛の呼び方のマネまで……! 俺の胸の上を涼月の人差し指で『の』の字を書きながら、
上目遣いで俺の目を覗き込んでくるデレ月さん。その瞳は少し潤んでいて、
もう何て言っていいか分からないが色々とヤバイことになっている。

「なななななな」

 もう言葉を発することが出来ないくらいに頭が混乱してしまっている俺。
というか、余程のヤツじゃない限り、今のデレ月さんに対抗できる男なんていないだろう。
 ぶぴっ、と例のごとく鼻血が流れ始めてきたが涼月お嬢様は離れる素振りを見せずに、
むしろもっと身体を密着させてきた。左足を持ち上げ、俺も腿に腿をスリスリさせ始めたのだ。
 先程の抱擁を耐えていただけでもかなりの進歩だが、全身で涼月の温もりを感じてしまう
今の状況に耐えられるはずが無い。

「あぅ……」

 数秒後、全身から力が抜けていった俺は、そのまま無様に床に倒れこんでしまった。
完全に意識が飛んでしまう少し前、身体が崩れ落ちていくその瞬間に、涼月がボソッと何かを
呟いていたのが分かった。もちろん、何を言ったのか理解は全く出来なかったけれど。



「お目覚めかしら、ジローくん」
「ん……ここは?」

 もの凄く見覚えがある部屋の中で目覚めた。どう見ても俺の部屋である。
それは全然いいのだが、どうして俺はパンツ一丁になって自分のベッドに括られてしまっているのかが問題だ。

「どうして俺は自分の部屋で拘束されなきゃいけないんだ」
「あら。だってこれから色々とするのに、逃げられたりしたら嫌じゃない?」
「逃げるって……何をするつもりだ」
「何って……ナニに決まっているじゃない」

 そう言って、すっと自らの服を脱ぎ始めた涼月お嬢様。っておい! どうしてこのタイミングで服を脱ぎだす!

「流石に私だけ服を着たままって言うのはフェアじゃないでしょ?
 それに、ジローくんだって目の保養になるじゃない?」

 涼月は話しながらも着々と服を脱ぎ続け、いつの間にか上下共下着を残すのみとなっていた。

「うおっ! ちょっ、服を着ろ!」

 俺に出来る精一杯の抵抗は横を向いて涼月の方を見ないようにすることだけだった。
 だって両手はベッドに拘束されてるんだもん。

「うふふ。ねぇ、ジロゥくぅん」

 ジリジリと、甘い声をあげながら近寄ってくる涼月。直視はしていないけれど、未だに下着姿で
寄って来ているのが目の端で見えてしまう。正直に言って、直接触られたりしていないにも関らず、
いつ鼻血が噴出してもおかしくない状況だ。

「待てっ、早まるな!」

 俺はもうどうしようもなくなって目を思いっきり閉じた。視覚情報だけでも閉じておかないと、
本当にどうかなってしまいそうだった。
 ギシッとベッドが軋みをあげる。涼月がベッドにあがってきたようだ。
それでも俺は目を開けることはしなかった。

「実はね……さっきジローくんが気を失っている時に、お団子を一ついただいちゃったの。
 我ながら美味しく出来たと自己満足しちゃった」

 てへっ、と、きっといつもの様に舌をぺろっとだしてはにかんでいるのだろうが、
目を閉じている俺には真偽の程はわからない。

「それでね。どうしてか胸が熱いの……モヤモヤして、頭がぼーっとして」

 どうしてかって、さっき自分で言ってただろう。『猫っぽい』人が食べると効果が出るマタタビが入っていると。
つまり、そういう事だ。こいつもどちらかと言えば『ネコ』の方だったというわけだ。

「にゃぁ」
「わざわざ鳴かなくていい!」

 悪戯好きな子猫と言えば聞こえはいいかもしれないが、そんな生易しい例えで効きそうな性格ではない。
まあでも、確かに犬というよりも猫だよなぁ。

「ねぇ、ジローくん。イイコト、しましょ?」
「んぷっ!?」

 そのまま俺の上に覆い被さった涼月は、いきなり口付けを交わしに来た。
もちろん、マウストゥマウスである。
 目を閉じているが為に完全に不意打ちを食らう形になったが、目を開いていたとしても
全く抵抗出来ていないことには変わりはないだろう。

「んふふ。キス、しちゃった」

 予想外の攻撃、むしろ口撃に俺はつい目を見開いて涼月を見つめてしまっていた。
なぜなら、今の涼月の表情は今までに見た事の無い幸せそうな笑顔で彩られていたからだ。

「えへへ」

 そうして、涼月はそのまま剥き出しになってしまっている俺の胸板(と呼ぶには全く厚くないが)に
頬擦りをしていた。普段ならもうとっくに鼻血を噴出させて、意識朦朧となってしまっていても
おかしくない状況なのだが、なぜだか今のこの時点ではその素振りは全く見えなかった。
 更に、いつもと違う反応を起こしている部位がひとつ。
つまり、俺の男としての部分が全力で自己主張を始めていた。
 どうやら涼月もその事実に気づいたようで、いつもの様な小悪魔スマイルを表情に浮かべると
嬉しそうにその左手を俺の股間に伸ばし始めた。

「うふ。身体は正直なのね、ジローくん」
「ななななな、何を!? 止めろ、それは冗談ですまない!」

 もちろん、涼月は股間に手を添えるだけで止まらなかった。トランクスの中で存在主張を続けていた
俺の愚息を軽く一撫ですると、トランクスの隙間から竿の部分だけを取り出したのだ。

「結構大きいのね、ジローくん。それともコレが標準的な大きさなのかしら」

 そんな事を淡々と述べながらも涼月の手は俺の竿の部分を刺激し始めていた。
 始めはぎこちなく触る程度だったが、意外と大丈夫に思ったのか、
正に棒を掴むように立ちきっている俺の愚息をつかみ出した。
 そして、根本からゆっくりと先端に向けて腕を上下に動かし始めた。
――― 一言で言ってしまえば手コキである。

「うああ、や、やめろぅ……くっ」
「あはっ、気持ちいいんだ。ジローくん」

 今までに感じた事のない強烈な快感が下半身から脳に向かって駆け抜けてくる。自慰行為など
今まで数え切れないくらいしたことはあるが、自分の手と他人の手では正に天と地ほどの差があるようだ。

「そんなこと言っても無駄よ。それにほら、やっぱり身体は正直みたいね」

 涼月はそう言って今まで俺の股間を弄んでいた左手を俺の眼前に持ってきた。
そこは、何か半透明な液体でぬらぬらと鈍い光をあげていた。どう考えても俺の先走り汁が
涼月の左手に塗りつけられていた。ソレを見ただけで、俺は先程から触られていた股間が更に熱く、
堅くなるのを実感してしまった。

「ぺろっ。ん、以外と味なんてしないのね」
「な!?」

 事もあろうか涼月は、自らについた先走り汁をペロッと一舐めしやがった。
それだけで満足出来なかったのか、涼月は身体の向きを変えて俺に背中を向ける格好になった。
 そのまま涼月は頭を下げて股間の目の前に顔を近づけていた。
もちろん、そんな格好になれば俺の目の前には涼月のお尻が眼前でドアップになってしまっている。

「うわぁ。すごい匂いね、ジローくんのここ」

 くんくんと、まるで犬のように俺の股間の匂いを嗅ぐ涼月。
俺は羞恥で顔が熱くなっているのが自分でもわかった。
きっとさっきの紅羽のように顔が真っ赤に染まってしまっているんだろう。

「こっちはどんな味なのかしら……ちょっと苦い感じ」

 さらに涼月はまるでアイスキャンデーを舐める様に、俺の亀頭を一舐めした。
手とは一味も二味も違う柔らかさに、まるで全身に電流が流されたかの様な衝撃が俺を襲った。

「あはっ、舐めた途端ビクってなったわよ、ジローくん。気持ちいいんだー」

 まるでお預けをくらっていた飼い犬がミルクを飲むかのように、涼月は俺の亀頭をペロペロと舐め始めた。

「う、く……」

 股間から絶えず送られてくる快楽の信号、目の前でプリプリと揺れる涼月の形のいいヒップライン。
更に全身で感じる涼月の暖かさが俺から理性を一秒単位で剥ぎ取っていく。
 今、俺は鼻血をだらだらと垂れ流しているのか、それとも何ともなっていないのか。
それすら分からない心理状態に陥っていた。
つまり、俺は目の前で繰り広げられている涼月の痴態に、完全に興奮しきっていた。

「んっ……ビクビクが止まらなくなってきた……ジローくん、そろそろ出そうなのね?」
「はっ、んん……」

 俺はずっと必死に射精感を堪えていた。いくらこんな状況だからと言ってクラスメイトに向かって
精子をぶっ掛けるわけにはいかない。コレが俺の最後に残った理性の一欠けらだった。が―――

「……ちゅっ。ずずずず……んくっ、んくっ」
「はぁ!!? ちょ、涼月、おま、な、にをぉ!!」

 いきなり涼月は亀頭を口に含むと思い切り吸い始めたのだ。
俺の尿道からは絶え間無く我慢汁が垂れ出ていたが、
ソレをこのお嬢様は全部勢い欲く飲み込み始めていた。

「ずずず……んっ」
「や、やめろぉ! くぅっ」

 まるで下半身を内側から吸い取られていくような錯覚を覚えてしまうような快感が絶え間無く襲ってくる。
こんな強烈な刺激に耐えられるわけがなかった。

「くっそ、で、出ちまう!」
「じゅるる、ぷはっ。うふふ、ジローくん。我慢しなくてもいいのよ」

 一旦吸うのをやめた涼月は首だけ振り返って、俺の目を見てそう言った。
彼女の口の先端から、半透明の液体がつぅっと一筋だけ垂れていた。
その姿は、生来のお嬢様と言う気品さと女性本来の淫らさが見事に調和されており、
まるで何かの物語に出てくる『サキュバス』の様な妖艶な美しさを放っていた。
 そうして、こちらの返事を待たずに涼月は再度俺の亀頭を吸い込む作業に戻っていた。
もう俺には抵抗する気も起きなかった。完全に先程の涼月の表情に取り込まれてしまっていたのだ。

「じゅる……っ!! んっ、んくっ、んく……んんん、んぶっ」

 ぷはぁ、と大きく息を吐き出して深呼吸する涼月。
その口からは飲み込みきれなかった俺の精液がだらだらと垂れ流しになっている。

「もう、ジローくんってば。一言出すって言ってくれないとこっちの準備って物があるじゃないの」

 自らの口を拭きながらそう抗議してくる涼月お嬢様。その表情はこちらも見た事が無いほど、
真っ赤に染まっている。怒りとも照れとも言える微妙な表情だった。
 そして、その表情を見た瞬間に俺の意識は遠のいていった。
どうやら溜めに溜めた射精と共に緊張の糸もぷちっと切れてしまったようだった。

「ちょっと、ジローくん!? ねえってば!」

 涼月が必死に俺の身体を揺すっているようだが、もう身体に何の感覚も残っていない。
むしろ今まで保ってくれていたのが不思議でしょうがない。

「涼月……ごめ、ん」

 せめて、最後に。その一言だけは涼月に伝えたかった。
 どうしてかは俺自身にもわからないけれど。
 そして、本当に口に出して言えたのか分からないまま俺の意識は暗い闇の底へと落ちていった。


「―――はっ!? こ、ここは!?」

 がばっと身体を起こして辺りを見回してみる。どうやら自分の部屋のベッドで間違いないようだ。
時刻は……うえ、もう昼過ぎじゃないか。結局昼過ぎまで眠っていたのか。

「す、涼月は!? どうやら部屋には居ないようだが」

 念のために再度部屋を見回してみる。
しかし、部屋の中に涼月どころか、誰か他人が侵入した形跡すら見当たらない。
もちろん、俺自信も寝巻きをきちんと着込んでいるし。ベッドにもシミ一つ付いていない。

「も、もしかして……」

 今のって俺の夢、なのか? それにしては余りにも鮮明な映像と感覚だった。
今だって身体にはさっきの涼月の温もりの感覚が残っているようだし。

「そっか、夢だよな……流石の涼月もあそこまで無茶なことはするわけないって」

 あははは、と乾いた笑いを上げながら俺は階下のキッチンへと降りていった。
しかし、結局俺は気づけなかった。色々なヒントがこの家中に残っている事実に。
―――皺一つ見当たらないほど綺麗に保たれていたベッドに始まり、
眠る前に変わってしまっているトランクスの柄。変に多い洗濯物の数。
そして、何故かキッチンに置いてあった少し高級そうな白い皿。
 それらの意味に気づいていたら、また少し違った学園生活が待っていたのかもしれない。



「ジローくんのヘタレ。やっぱり『サカマ”チキン”ジロー』の名前の通りじゃないの……」

 自らの居室でのベッドに腰掛けて、涼月奏はボソッと呟いた。ワザと色々とヒントを残してあげたのに、
連絡など入る気配が全くなかった。どうやらそのことにも腹を立てているようであった。

「しょうがない。このことはちょっと置いておいて。明日からまた色々からかってあげましょう。
 イザとなったら今日の事をこっそりと伝えてみようかしら。
 それはそれは面白い反応を上げてくれるに違いないわね」

 スパッと気持ちを切り替えて、奏は鏡台の前へと移動した。
そして、自分の唇に指を沿え、先程の痴態に頬を赤く染めていた。

「うふふふ。明日会うのが楽しみね、ジローくん」

 そう呟いた後、何をするでもなく奏はそのまま自らの部屋を後にした。
 誰も居なくなった部屋の中、ベッドの傍には先程の小さな団子が数個ほど、
透明パックに入れて保管されていた。それがこれからどう使われるのか。それは奏自身にも解っていなかった。
 いや、むしろ解ろうとしなかった。だってソレを認めてしまえば奏はジローの事が……
 そうして、色んな思いが錯綜しながらも休日は過ぎていくのであった。




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