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巣立ちのとき


―序章:始まりの朝―

 迷いの竹林。只の人間どころか妖怪が入っても道に迷ってしまうという幻惑の竹林。
その奥底に有ると言う永遠亭には、この世のどんな症状でも治してしまうという凄腕の
薬師が住んでいるというのは、この界隈では割と有名な話である。
 迷いの竹林から少し離れた場所に一つの小さな村がある。その村で過去に類を見ない
伝染病が発生していた。一度その病にかかってしまうと、全身の筋肉に力が入らなくなり、
指一本動かせなくなってしまうというものであった。ただ、その伝染病はどうやら女性には
伝染はしないようで、村の女性たちは懸命に床に伏せてしまっている男性たちに懸命の
看護を毎日繰り返しているため、奇跡的にまだ死者は発生していなかった。
だが、いつ死人が現れてもおかしくない状態は続いているし、男手が全く機能していない
今の村では、先が短い事は明白だった。
 そこで、村の中で一番体力が残っており、物怖じしない性格をしていた少女数人を
永遠亭に助けを求めるために派遣することにしたのだ。選ばれた少女たちは永遠亭を
目指してひたすら竹林を彷徨い続けた。そして、竹林の中を彷徨い続ける事約2日。
食料も全て尽き、帰り道すら判らなくて途方にくれていた彼女たちの目の前に、
とても大きな和屋敷が現れた。その屋敷の名前は、永遠亭。彼女たちが探し求めていた、
伝説の薬師が住むと言われている場所だった。

「話は分かりました。確かにその症状は私にも聞いたことがありません」
 青い生地に赤い十字がマークされた帽子を被っていた女性が、彼女たちの話を聞いて
そう答えた。彼女こそ、巷で噂の凄腕薬師である、八意永琳その人である。
「なので、それを治す為の薬というのをご用意できません」
「そ……そんな……そんなこと言わずに何とかしてけれ!」
「そ、そうだぁ、そうだぁ! このままじゃあおら達の村が全滅しちまうだぁ!」
 永琳の言葉を聞いて、村の少女たちは彼女に何とかしてくれないか、と懇願を続けるが、
永琳の首が縦に振られる事は無かった。
「本当にごめんなさい」
 その言葉を残して、永琳は少女たちの前から姿を消した。
 おそらく村を救える唯一の女性だと信じてここまで来た彼女たちは、この事実に
落胆してしまっていて、永琳が居なくなった後も誰もその場を動こうとはしなかった。

「ねえ、永琳。あなた本当はあの娘たちの村に行ってあげたいんでしょう?」
 今の一連の流れをどこかで見ていたのだろうか、永遠亭の持ち主である蓬莱山輝夜は
自らの従者である八意永琳へと話しかける。
「姫様……」
「別にあの娘たちの村を守りに行けって言ってるわけじゃないわ。貴方が新種の
 研究対象が近くにあると聞いて黙っているなんて出来ない事を知っているだけよ」
 腕組みをしたまま輝夜は言葉を続ける。
「それとも、貴方はここの研究室の中でその病原菌が永遠亭に蔓延んで来るのを
 ただ指を加えて待っているのかしら」
 永琳は何も言わずに自らの部屋へと戻っていった。
「本当に頑固なんだから、永琳は」
 輝夜もその言葉を残してその場から離れていった。

―――それから2日後の朝。
「それでは、少しの間留守にするから後は任せておくわね、輝夜」
 永琳は大量の荷物を抱えて、先の少女達とともに永遠亭の玄関口に立っていた。
「し、師匠ー! も、もう少し荷物持っていただけませんか……」
 もとい、大量の荷物を抱えた鈴仙を従えた、永琳たちが玄関口に立っていた。
「あら、誰かが満月草を採って来なかったお陰で今研究中の薬品がお蔵入りしそうなのだけど?」
「そ、それは……うぅ、判りました、判りましたってば! さあ、ささと行ってさくっと治してしまいしょう!」
「あらあら、急にやる気になったわね、ウドンゲ」
 鈴仙は、先日の深夜の薬草採取に失敗したお陰で事有るごとに永琳から
責め立てられて奴隷のように言いなりの身分になってしまっていた。だが、
当の本人は気付いていない。採取に行く前からそんなに彼女の扱いは変わってはいないことに。
「あのぅ、どうもありがとうございますだ」
 村の少女たちの一人が輝夜にお礼の言葉を告げた。
 急な永琳の心変わりに輝夜が絡んでいた事に薄らと気付いていたのかもしれない。
「あらあら、御礼なんて要らないわ。むしろ、こっちが貴方たちに言いたいくらいよ」
「へ?」
「気にしないで。こちらの話よ」
 少女の頭の上にはてなマークが数個浮かんでいたが、輝夜はそのまま屋敷の奥へと戻って行った。
「それでは、行ってまいります。あ、姫様。てゐの奴を見かけたらで結構なんで
 伝えておいてくれませんか? あの続きはまた戻ってからするって」
「覚えてたらね。後、何かお土産よろしくー」
 そうして、永琳と鈴仙は未知の病原菌調査の旅に出たのであった。

 自室に戻ってきた輝夜は、両腕をプルプルと震わせ始めた。
そして、次の瞬間両手を上げ大声で叫びだした。
「イヤッッホォォォオオォオウ! ひっさしぶりの一人生活キタ━(゚∀゚)━!!」
 そう、輝夜は永琳や村の人間の事を思って永琳にけしかけたのではなかった。
ただ単に、永琳達を永遠亭の外へと外出をさせて一人でゆっくりとしたかっただけである。
 地上に降りてきてからずっと永琳との暮らしを続けていた輝夜。始めの内は月の刺客が
来るかもしれないと永遠亭の時をその名の通り永遠に建物ごと地上とは違う時の流れの
中へと隠していた。だが、それもあの金髪の魔女たちが永遠亭に乗り込んできたお陰で時が
動き始めたのだ。そして輝夜や永琳の心境にも変化が現れ始める。そう、此処は幻想卿。
大勢の他人に忘れ去られたモノ達が流れ着く、一種の楽園地帯。
追手の影にビクビクと怯えながら過ごす日々はもう終えたのだ。
 それから輝夜たちの生活は今までの物とは比べ物にならないくらい目まぐるしく
過ぎていくことになる。永琳はその豊富な知識と、彼女の能力である「あらゆる薬を作る程度の能力」
から薬局を開設。極稀に近隣の村に薬を売りに行くことさえ行っていた。
 その一方で輝夜の方は、月での生活、または伝説となって語り継がれている過去の
地上での生活の所為か、永遠亭の庭に置いてある盆栽の手入れくらいしか出来る事がなかったのである。
 永遠亭に篭っていた間は、わざわざ永遠亭から抜け出せば月の追手に自ら姿を現している
事になってしまうので、永琳も何も言わなかった。だが、例の永夜事件の一件から永琳は
輝夜にも永遠亭以外の所で何か関係を持ってもらいたかったのだ。
 そして、色々な手を使って輝夜にあれやこれやをさせようとしたのだが、
輝夜は永琳の思惑にすぐに気づいてしまい、そそくさと隠れてしまうのであった。
それがここのところずっと繰り広げられている。ちなみに、その後始末は全て鈴仙のところに
回っていることは鈴仙以外が知っている事実である。
 輝夜の方もほぼ毎日行われている永琳のあれやこれやがうんざりしていたので、
今日のこの訪問は正に願ったり叶ったりの展開だったのだ。

「いやあ、食べるものだけ何とかすれば永琳の目を気にせずにゆっくりと過ごせるわ。
 ん〜、いっそのことひと月位戻ってこなければいいのに」
 そう言って輝夜は自室の畳の上に大の字に寝そべっていた。
「このままもう一度眠ってしまおうかしら。んーでもそれって無駄に時間を消費するだけのような気がするわ」
 これからの数日間の事を考えるとウキウキしてしまう輝夜だった。だが、その想いも長くは続かなかった。
「すみません! 誰かいらっしゃいますか!?」
「もう、誰よこんな時に……」
 普段なら滅多に来るはずの無い、永遠亭内への客人がやって来たようだ。
(別に、このまま居留守を使ってもいいのよね)
 こういう時にいつも対応してくれていた永琳や鈴仙は、今は出掛けてしまっている。
また、元々から迷いの竹林の住民である地上の兎であるてゐは、
ここ数日間仲間の兎を連れて何処かへ行ってしまっている。それ自体は別に珍しいことでは
無かったのだが、今日に限っては少しタイミングが悪かった。
「おかしいわね……すみませーん!!」
 どうやら客人の方もこのまま帰る事はしないようだ。明らかに誰かがこの屋敷に
居る事を知って来ているように輝夜は思った。
「仕方ないわね。放っておいて後から何度も来られても厄介だし、応対してあげるわ」
 輝夜は招かざる客が待つ玄関口へと渋々向かった。
「あら、やっぱり居たんじゃない」
「あなたは……吸血鬼のところのメイドじゃない」
 そう、永遠亭への客人は、完全で瀟洒なメイド長こと、十六夜咲夜その人であった。
「えっと、あなたが蓬莱山輝夜……様でしょうか?」
 何故か途中から咲夜の言葉が丁寧になっていたが輝夜は得に気にせずに彼女の問いに応えた。
「ええ、そうよ。残念ながら永琳達は今出掛けてしまっているわ。薬が欲しいのなら、
 あと数日すれば帰ってくるだろうからその時にしなさいな」
 輝夜の言葉には咲夜をさっさと紅魔館へと返してしまおうという感情がありありと
込められていた。もちろん、咲夜もそれを感じ取ってしまったが、彼女も退けない訳がある。
「いえ、私は貴方様に御用がありまして……」
 先ほどからの変に畏まった咲夜の態度に、流石の輝夜も違和感を覚えざるを得なかった。
「一体何って言うの?」
「我が主レミリア様よりの命により、永遠亭への慈善活動および家主である
 輝夜様の生活保護に参りました」
「は……? 生活保護? っていうより永遠亭への慈善活動とか、どういうことなの?」
 輝夜は昨夜に問い詰めるが、咲夜自信も困った表情を浮かべながらその問いに答えた。
「私の方もよくわからないのですが……何故か今日のこの時間にこちらへ伺うように、
とのお嬢様の命令でしたので……それ以上は何とも」
「ねえ、あなた。数日前に誰かそっちに客が来なかった?」
「客人ですか? ……いえ、客人は来ていませんわ。ただ……そう言われれば2日程前に
 お嬢様宛の手紙が届いていました。普段そういった類のものは届かないので珍しいな、と」
「手紙……差出人の名前とかは分かるかしら?」
「いえ、そこまでは確認していませんわ」
(ちっ、多分その手紙の差出人ってきっと永琳だわ。自分が居なくなるからって
 まさか紅魔館にまで手を伸ばしてるなんて……)
「そう……まあいいわ。それよりも、別に永遠亭にそんな他所からの支援なんて必要ないわ。
 来てもらって早速で申し訳ないけど、帰ってもらえないかしら」
「そ、それは困ります! 私の方にもお嬢様に合わせる顔が無くなってしまいます!」
「でも、当のわたしがいらないと言っているのだからここにあなたの仕事はないわよ」
「しかしですね……!」
 輝夜と咲夜が玄関先でそうこう言いあっている最中、咲夜の背後からもう一人尋ね人が現れた。
「あら、何を玄関で言い合っているのかしら」
「どうしてあなたもここにいるのよ!? 人形の魔法使い!!」
 二人目の来訪者は、アリス・マーガトロイドだった。
「お久しぶりね、月のお姫様。満月の異変以来かしら?」
 驚きを隠せない輝夜に対し、アリスの方は普段と何ら変わらない涼しい表情で言葉を続ける。
「紅魔館のメイドまでいるのね。凄い念の入れようだこと」
「と言う事は貴方も此処に呼ばれたのかしら?」
「ま、そういうこと。それじゃあ、ちょっとお邪魔するわね」
 アリスは棒立ちになってしまっている輝夜の横をすり抜けて永遠亭の中へと入っていく。
「ちょっ! 勝手に入らないでちょうだい! まだわたしは入っても良いなんて許可を出してないわよ!」
 輝夜は既に中に入ってしまっているアリスの背に向かって叫ぶが、
アリスはめんどくさそうな顔をして振り返ると、静かにこう言った。
「許可ならもう貰っているわ。貴方の従者にね」
「やっぱり永琳の仕業なのね!? 今度は一体永琳に何を頼まれたって言うの!?
 わたしの相手か何か?」
「そんな事ならわざわざこんな所まで来ないわ。私が頼まれたのは、留守の間の薬品庫の
 手入れと管理。もちろん、報酬も準備してもらっているから立派な仕事よ」
 アリスはそう言って一枚の紙切れを取り出して輝夜に手渡した。
そこには永琳の文字でこう書いてあった。
『明日より数日の間、薬品庫の管理をお願いします。
 報酬は、数種類の魔法薬(但し、蓬莱の薬等の特別な物は除く)』
「な、何よコレー!?」
「あら、昨日永琳が直接私の家に来て正式に取り決めた契約書よ。
 月の秘術か何かで書かれてるらしくて文字の追加や消去、または紙自体が千切れて
 契約破棄にならないように補強されてるらしいわ」
 手に持った紙を両手で引っ張りながらアリスは説明した。
確かに、普通の紙なら裂けてしまってもおかしくない程引っ張れられているにも関わらず、
永琳の契約書は伸びることはあっても裂ける気配は一向に見えなかった。
「そう言えばお嬢様のところに届いた手紙もこんな紙だったような気が……」
 咲夜はアリスが引っ張っている紙を見て、数日前の記憶を辿っているようだ。
「ま、そう言うことなんでお邪魔するわね」
「あ、じゃあ私も同じくお邪魔します」
 そうして、アリスはどんどんと奥に入って行く。咲夜はコソコソとアリスの後ろに
くっ付いて永遠亭へと入っていく。
「あーもう、勝手にしなさい!!」
 結局輝夜はもう二人を止めることを諦めたのだった。二人に永琳よりも良い条件を
二人に突き付けて帰らせる、という案も浮かんだのだが、『永琳よりも良い条件』と
言う時点で輝夜には無理な話であった。
「ああ……折角一人でのんびり過ごそうと思ってたのに……」
 かくして、数日間という短い期間だが普段と違う面子での永遠亭の共同生活が始まったのである。


・ 咲夜とお座敷


 今まで永遠亭の奥まで入ったことのない咲夜は、ひとまず永遠亭の邸内散策を行うことにした。
掃除をするにしても、食事を作るにしても、屋敷内の間取りを把握しておかないと
何も行動を起こせないから絶対に欠かせないことだった。
「永遠亭と言う名前だけあって、流石に広いわね」
 何処にこんなスペースが有ったのか、先が見えない程続く直線の木の板張りの廊下。
その両側には襖仕切りの部屋が延々と続いている。咲夜はその内の一つの部屋を覗き込んでみた。
部屋の中は、畳敷きの部屋になっていて、よく見ると襖仕切り一つで一つの部屋に
なっている訳ではなく、一つの部屋に数カ所以上の入口があり、それを襖によって仕切っているようだ。
「大部屋がたくさん並んでいるのね。これならまだ掃除はしやすいだろうけど……」
 咲夜にとって、畳敷きの部屋と言うのは初めて見る物だった。
 紅魔館は、外観からして洋風建築なので、玄関から寝室に至るまで
全て土間扱いの為常に靴を履いているし、それが当たり前と思っていた。
 だが、永遠亭は紅魔館とは根本から違うようで、玄関で靴を脱ぎ、
そこで上履きに履き替えると言う風習を前提に設計されている。そのため、室内は全て裸足、
もしくは上履きによる移動となるので、板張りの部屋というのは珍しい部類に含まれてしまうようだ。
基本的に個室や客室は全て畳張りとなっていて、床の上に直接くつろげるようになっている。
廊下や玄関など人通りが個室に比べて多い場所は板張りの床になっていて、
畳に比べて耐久性がよくなっているようだ。水まわりを使う場所、つまり浴室や台所は
石張りになっていて水捌けがよくなっているあたり、設計者の拘りが感じられる。
「なるほど……紅魔館とは全く違うつくりだけどこれはこれで悪くないわね」
 咲夜は部屋の隅々まで見て回ると、一つの個室に入ると畳の上に座り込んだ。
「うん……紅魔館にも一部屋こういうのを作ってみようかしら」
 咲夜は畳の目を指で摩りながら、紅魔館に戻った後のことを考えていた。
「妖精メイドと小悪魔たちに一応頼んできたけど、本当に大丈夫かしら……」
 咲夜は、恐らくレミリアの元で勤める様になってから一人で紅魔館の外で長期外泊をする
のは初めてのことだった。今まで彼女たちには手伝いをしてもらってはいたが、
全ての事を頼むことが今までなかったので、その事が心配だった。
「あの娘達を信じるしかないわね……それにしても―――」
 この肌触り癖になりそうだわ、と咲夜は畳の上に寝そべって頬をスリ寄せる。
その顔は紅魔館に居る時に見せることのない、非常に和やかな表情をしていた。
「このベッドとは違う、植物独特の柔らかさや香り、本当に気持ちいいわね」
 畳の肌触りを全身で感じていると、ここにたどりつくまでにかなり張っていた
咲夜の精神は緊張状態から解放されていった。それに合わせて身体から力が抜けていき、
自然とまぶたが下がりきっていく。
「こういうのも……悪くないかも……」
 そうして、咲夜は完全に睡魔の誘惑に負けてしまい、夢の世界に旅立って行った。

―――それから数分後。
「あれ? この部屋襖なんて開いていたかしら? 永琳や鈴仙は開けっ放しなんてしないはずだし、
 てゐはまだ帰ってきてないし?」
 たまたま輝夜がその部屋の前を通りかかった。普段全てきっちりと閉まっている襖が、
この部屋だけ半開きの状態になっていたのが目に入ったのだった。
「誰かいるの? って、アララ」
 輝夜がその部屋の中を覗き込んだ。そこには、部屋の真ん中で幸せそうな笑顔で
畳の上で雑魚寝している咲夜の姿があった。
「あの洋館だと確かにここの畳は珍しいだろうけど……これって一体どうなのよ?」
 輝夜はその咲夜のその姿を見て苦笑を漏らしていた。今の姿を見ていると、
噂に聞いているあの紅魔館のやり手のメイド長とは全く思えない。
「それにしてもこの娘……犬ミミとか尻尾とか。そう言ったもの着けたくなるわ」
 物音を立てないようにこっそりと咲夜の近くに忍び寄り、彼女の顔を覗きこむようにしゃがみ込む。
「あいにくここには兎の耳と尻尾くらいしかないんだけど。それを付けても面白いかもね……ぷっ!」
 動物の耳をつけてパタパタと働きまわる咲夜の姿を想像して、
輝夜は吹き出しそうになったが、それをぐっと噛み堪える。
「んんぅ……はっ、私……って輝夜さん!?」
「あちゃ、起きちゃったか」
 どうやら輝夜の堪え笑いが咲夜の耳に入ってきた所為で目が覚めてしまったようだ。
「あわわわ……あの、その……」
「咲夜。ここ、ここ」
 輝夜は自らの頬を指さして咲夜に見せる。咲夜はそれを見て自らの頬を恐る恐る触ってみる。
そこには、くっきりと畳の目の型が付いていた。
「いやああああああ!!」
 咲夜は叫びながら何処かへ走っていってしまった。
「……どうやら見ちゃいけないものだったのかしら」
 まだ咲夜と出会って数分しか経ってない輝夜にとって、彼女の行動はよくわからなかったが、
ちょっとは暇つぶしにはなりそうだわ、と楽観的に捉えたのだった。


・ アリスと永琳の研究室


一方こちらは魔法薬が大事に保管されている薬品庫。
「うわあ、この量はすごいわねぇ」
 アリスは一歩薬品庫に踏み入れるだけで感嘆の声をあげていた。
 ここには、今まで文書でしか見たことのない薬品が至る処に保管されている。
一応昨日永琳がアリスの元を訪ねてきたときにここの薬品の配置図を書いてもらっていたのだが。
「ええと、何々……? この棚が普通の薬品。
 こっちの棚が魔法薬関係で、あっちのが……」
 そのメモ帳と実際の棚の配置とを一つずつ見比べていくアリス。
「……こんなの数日程度じゃ何処に何があるのかなんて覚えられないわ」
 だが、アリスはそのあまりの薬品の種類と似ている見た目から配置を記憶することを諦めたのだった。
「別に誰かのために調合するわけでもなし、わざわざ全部覚えなくてもいいでしょ。
 さて、それよりも例の薬品は……っと、あれね?」
 今回、永琳がアリスに薬品庫の管理を頼んだのには大きな理由があった。
 一つは、あの永夜異変以降、アリスは稀に永琳の所に魔法薬を購入に来ていたこと。
そして、二人は会話を交わす度に親睦を深め、アリスに魔法薬の最低限の取扱いは
任せられると信用したからだった。
 それともう一つ。現在永琳はとある魔法薬の製造途中で、それを完成させるにはまだ
数日以上に渡って行う工程が残されている。その工程の一つに魔法使いの魔力を注ぐ、
と言うものが含まれていた。永琳に魔法使いの知り合いというのはアリスを除くと後は
あの黒白しかいない。そちらにそれを頼むと後がどうなるか判ったものではないため、
元よりアリスに頼み込むつもりだったので一石二鳥ということだった。
 その例の薬品だが、一目に作成中とわかる代物だった。まるで漫画か何かの調合の様に、
大きな釜にグツグツと火で何かが煮込まれている最中だった。
だが、釜を煮ている火の色は普通の色ではなく、何故か薄緑色をしているのが少し気になる。
「炎が出ているのに全く熱くないのね。これ、この世界の炎じゃないのかも」
 アリスは興味津々に釜の状況を観察している。もちろん、その薄緑色の炎に触れる、
なんていう間抜けな行為はしなかった。いくら熱くなくても炎は炎。どうなるのか結果は見えていたからだ。
「えーと、何々……? このまま後数時間程煮続けると、炎の色が変わって……」
 永琳からの指示書を読み続けるアリス。永琳が他人に託す位なのだからそれ程
難解な製作過程ではないはずだ、と思っていたのだが……
「その後この水色の薬品を投入してからシアン色の薬品、青空色の薬品と順番に入れて
 再度加熱……それから数時間煮た後にそこの薬草を入れれば完成っと。
 順番だけ間違えなければいいんだろうけど、見事に似た様な色の薬品ばっかり入れるわね」
 初心者なら見事に間違えそうな微妙な製作過程だった。
それでも魔法薬の作成が初めてではないアリスにとっては問題は何もなかった。
「ま、この程度ならこの子たちに任せておきしょうか」
 そう言ってアリスは懐から2体の人形を取り出し、手を人形の頭の上にかざして
何やら呪文を唱え始めた。直後、その2体の人形は魂を持ったかの様に自らの意思で動き始めたのだ。
「これでよしっと。それじゃあ、時間になったらよろしくね」
 これが彼女が人形の魔法使いと言われる所以である。完全自動制御で動く人形や、
アリス自信が使役して、手足の延長線上の様に使う人形など、使う種類は様々あるが今回は
その内の自動制御で動くタイプの人形を選択した。自動制御の人形の場合、
簡単な命令をこなすのは出来るのだが、細かい作業や急な命令等には対応が遅れてしまう事が多い。
 だが逆に、今回のような長時間の単純作業の場合に適しており、アリス自信が
全く別のことをしていたとしても変わりに人形たちがその作業を的確にこなすことが出来るのだ。
「さて、私は今のうちにここの魔法薬の作り方でも教えてもらおうかしら」
 アリスの狙いは実はこれだった。永琳から買った魔法薬と、
自分が作った魔法薬では同じ効能を持つものだったとしても効果の程が全くと言っていいほど
違ったのだ。いくら永琳が安く薬を提供していたからと言って、自分で作れるに越した事はない。
一度その製作過程というのを調べてみたかったアリスは、永琳から今回の話を聞いた時に
大チャンスだと思ったのだった。
 薬品庫から出たアリスは、隣にある永琳の研究室へと入っていく。
「ここが、月の科学者の研究室か……私のところのと全然変わらないわね」
 永琳の研究室内は、アリスの家にもある書斎と何ら変わりのないものだった。
少し拍子抜けしたアリスは、本棚にある研究書物の内から一冊抜き取り、
その内容を読んでみたのだが……
「うわ……なんて書いてあるのかさっぱりわからないわ。これって月の言葉なのかしら」
 アリスにはその書物の文字がサッパリ読めなかった。
永琳は大事な書物は月の言葉で残すようにしているため、地上の妖怪や
人間の手に渡ったとしても解読が出来なかったのである。
「あちゃー。何だかセキュリティが弱いと思っていたらそういうことかぁ。
 何か私にも読めそうな本は無いかしら」
 それでも諦めきれないアリスは、その本棚に置いてある本を片っ端から手にとり中を読み始めた。
流石に全てが月の言葉で記されている訳では無かったのだが、読める内容の本は
一般的な薬の調合方法など、わざわざここで調べなくてもわかる程度の内容のものばかりだった。
「うーん、やっぱり魔法薬の調合方法とか書いてるのは無いわね。あら、あの本は……」
 アリスが探していた本棚の隅の方、一つだけ何か装丁が豪華な本が入っていた。
「流石にこんな豪華な研究本なんてないわよね……あら、この本の文字なら読めるわ。
 えっと、何々……こ、これはっ!?」
 アリスはしたり顔でその本を読み進めていく。
「うふふ。これはイイものを読ませてもらったわ」
 そして、その本を元に戻したアリスは、喜々としてその部屋を後にしたのだった。


・ 三人集まれば・・・


 そのまま特に何事もなく時は過ぎ、夕食の時間となった。三人は客間にてゆったりと夕食を堪能していた。
「んー、最初はどうなることかと思ったけど、何だかんだでいつもよりゆっくりできたわ」
 輝夜は今日一日の事をゆっくりと思い返していた。最初に咲夜が訪ねてきたときは
一体どうなることかと心配したのだが、彼女の働きは予想以上で、輝夜が特に指示する事もなく
次々と家事をこなしていく咲夜の姿にむしろ感嘆を覚えたくらいであった。
「そう言って頂けるだけで嬉しいですわ」
 咲夜は輝夜の言葉に心から嬉しそうに答える。と同時に、輝夜の耳元でぼそっと囁いた。
「あの……先程のうたた寝のことはどうかご内密にお願いします」
「あらー、どうしようかしら?」
 輝夜は咲夜の方を向いて嫌な笑顔を見せた。
「うう……どうして時を止めなかったんだろう……」
「あら。咲夜でも何か失敗をするのね。これは面白いことを聞いたわ」
 もちろん、それを聞き逃すようなアリスでは無かった。むしろこういった事を茶化すのが
好きな彼女は輝夜に乗っかって咲夜を突っつき始めた。
「あの門番辺りにでもこっそりと噂を流してあげましょう。きっと面白いことになるわよ」
「もう、いい加減にしてください!」
「あらあら、言いすぎちゃったかしら。ゴメンナサイね」
 輝夜は素直に謝ったが、アリスはまだ話を続けるようだ。
「愛しのお嬢様の耳に入らないようにしないとね。
 あら、それとも貴方は逆にお叱りでも受けたほうがいいかしら」
「そ、そう言う訳では……でも確かに最近お嬢様が何だか素っ気無い様な気もするし……
 少しくらいポカしたほうが可愛がられるのかしら……」
 アリスの言葉に何か思い当たる節でも有ったのか、咲夜はボソボソと小さい声で
独り言を発しつつ考え込み始めてしまった。
「おーい、帰ってきなさーい。私が悪かったからー」
「あっ、すみません」
「そういう貴方はどうなのよ? あの黒白の魔法使いと一緒に居なくていいのかしら?」
「ど、どうしてそこでアイツの名前が出るのよ!?」
 輝夜からの急な攻撃にアリスは戸惑いが隠せずに言葉が詰まってしまった。
「いえ、ただこの前に二人でここに上がり込んで来た時があったじゃない。
 あんなことを一緒にするくらいだから余程仲がいいのでしょう?」
 輝夜は言葉の上ではアリスに確認を取っているかの様に聞こえなくもないが、
彼女の口元はニヤリと笑っており、からかっているのが誰の目に見ても明らかだった。
「あら、貴方達そんなこともしていたの。パチュリー様のところにも二人で来ていたじゃない」
「あれは魔理沙が……その……ごにょごにょ」
 だんだんと語尾が小さくなっていくアリス。相手の事に突っ込むのは好きだが、
突っ込まれるのは慣れていないのであった。
「そうやって貴方が魔理沙を抑えておいてくれたらうちの図書館の蔵書が荒らされずに済むのだけど」
「それは私に人身御供になれ、といっているのかしら?」
「あら、そう聞こえた? 私はただ同じ森に住む魔法使い同士同じ屋根の下で
 生活したほうが学ぶ事が多いんじゃないか、と言ったつもりなんだけど」
「ど、どうしてそういう話になるのよ!?」
 咲夜の言葉に顔を耳まで真っ赤に染めながらも反論を続けるアリス。
 その二人のやり取りを同じ机に向かいながらも何処か遠くを見るような視線で輝夜は見つめていた。
(これが青春している、って言うのかしらね。何だかとても楽しそう)
 昔話として残るくらい前の事。輝夜がお姫様として地上にやって来ていた時の事。
輝夜は日の国の重鎮達とも言える当時の豪族たちから求婚を受けていたが、
無理難題を吹っ掛けてそれらを全て無下にしてしまった。やがて彼女は月に
戻って行ったのだが、月の生活は地上に比べれば退屈なものでしかなかった。
毎日変化の無い生活。それが嫌になって永琳に無理を言って地上へと逃げることになる。
 だが、今度の地上での生活は逃亡生活だったので、以前地上に来た時の暮らしとは
まるで天と地程の違いがあった。それでも、毎日毎日目 新しい事ばかりでここに来た
後悔は全くしていなかったのだが。
 そして、迷いの竹林に忍び込んだ二人は、そこに住んでいた幸福の兎こと『因幡てゐ』の
力を借りて永遠亭に隠れ住むことになった。輝夜の力により時を止めた永遠亭は
それから数百年もの間、世間の目から離れて停滞を続けていた。
 それが今目の前にいる金髪の魔女達のおかげとも言うべきか、所為とも言うべきか、
再度時を刻み始めることになったのだ。
 そうして今までの事をよくよく思い返していた輝夜はあることに気づいた。
 そう、彼女は求められることはあっても、自ら他人を求めることはしたことが無かったのだ。
(一体、この娘たちは毎日どんな気持ちで生活しているのかな)
 自分の10分の1も生きていない彼女達だが、その分私よりもきっと
中身の濃い生活を送っていることだろう。
 そう思うと輝夜には何だか彼女たちの姿が眩しく光って見えたのだった。
この娘たちは、私がもっていない感情を持っている、そう思うととても羨ましく思える。
(わたしにだって、そういう想いを持てる時が来るのかな)
 人とは違う時間の歩みをしている輝夜達にとって、そう言った感情は要らないものとして
切り捨てて来ていた。けれど、彼女たちのやり取りを見ていると、
そう言うのも悪くないんじゃないか、と輝夜は思い始めていた。
「よーし、夜はまだこれからよ! 咲夜もアリスもその辺のことをきっちりと
 聞かせてもらおうじゃない。何だったら今日は二人とも寝かせないわよ!」
「か、勘弁してください〜……」
 こうして永遠亭の夜は更けて行った。


・ 別れのとき


「ただいま帰りました……」
「あらウドンゲ。ここはまだ玄関よ。ほら、台所はあっちあっち」
「ちょっと位休憩させてください、師匠〜……」
 玄関に大量の大根やら人参やら沢山の野菜の入った風呂敷をかついだ鈴仙と、
薬を処方する為の道具のみを持っていた永琳が入ってきた。
 どうやら、無事に村の伝染病は解決したようだ。
「あら。おかえりなさい、永琳」
 そこにたまたま廊下を歩いていた輝夜が二人を出迎えた。
「ちょうどお昼ご飯が出来たところなのよ。みんな一緒に食べましょう」
「え!? 姫さまが料理をなさったんですか!?」
 輝夜の言葉に鈴仙は心から驚いた。今まで鈴仙どころか永琳の言葉でさえ
まともに動くことが少なかった輝夜が誰にも言われずに自ら進んで料理を行うなんて。
「まあ、私一人でやったんじゃないけどね。
 さ、いつまでもそんなとこにつっ立ってないで早く中にお入んなさいな」
 そうして輝夜はパタパタと台所へと向かっていった。
「あの、師匠。あれは本物の姫様なのでしょうか?」
「ええ、間違いないわ。あれは本物の輝夜よ」
(それにしてもここまで上手く行くなんて思っていなかったわ)
 確かに今回のことを全て仕組んだのは全て永琳の仕業だった。
アリスには報酬として魔法薬を数種類。そして、咲夜の方は先日のフランの件を持ち出して
レミリアに直接交渉した結果のことだった。だが、それは輝夜に地上の人間や妖怪たちに
少しでも興味を持たせる程度にしか考えていなかった。
 そうすれば、輝夜が外へ出ようとするきっかけになってくれるかもしれない、との願いを込めて。
 だが、その結果が今の輝夜のようだ。永琳の思惑以上に輝夜は外に興味を持ってくれたようだ。
きっと、これから彼女は色々な事にドンドンと挑戦していくことになるかもしれない。
(さて、後は姫様次第……ね)
 ここまでは予想以上とは言え、永琳のお膳立て通りに事が進んでいる。
これから先は、輝夜自ら道を選んで進んでいくことになるのだ。それが少し不安な事項なのだが……
「師匠。姫様も呼んでることですし、一緒にごはん頂きましょうよ」
「……そうね。ここで考え込んでも仕方ないし。行きましょうか」
 そして二人は輝夜たちが用意してくれたという昼食を食べに居間へと向かって行った。

―――昼食後。
「「「「「ご馳走様でしたー!」」」」」
 全員仲良く昼食を完食した後、アリスと咲夜は自らの家へと帰る支度を始めた。
と言っても二人とも大した荷物は持って来ていなかったため、昼食の片付けをし終わると
もうすでに後は帰るだけ、という状況になってしまったのだが。
「さて、それじゃあ私たちはそろそろお暇しましょうか」
 アリスが咲夜に向かってそう告げた。咲夜の方も異論は無いようで、無言でその言葉に頷いた。
「あ、そうだ。ねえ永琳」
「あら、何かしら?」
 帰り際、アリスは永琳を近くに呼び、誰にも言葉が聞こえないように耳元で囁く。
「輝夜の事だけど。あれで良かったのよね?」
「……あなた、気づいていたの?」
「気付いたと言うか、貴方の部屋で見つけちゃったのよ」
「そう……アレを読まれちゃったのね。まあ、勝手に私の私室に入ったことは今回見逃してあげましょう」
 永琳は一度輝夜の方を見て薄く微笑んだあと、アリスへと振り返った。
「そうしてもらえるとこちらとしても有り難いわ。それと報酬の件なのだけれど……ゴニョゴニョ」
「あら、それでいいのかしら? もっと色々なモノが有るわよ?」
「い、いえ……私にはこれで十分よ」
「そう、じゃあ後で誰かに貴方のお家まで運ばせるわね」
「ありがとう」
 そうして、二人は距離を取り直して玄関で待っていた輝夜達と合流した。
「遅かったのね」
「永琳とちょっと報酬の話を、ね」
「そう。しっかりしているというか何と言うか」
 咲夜は少し呆れた様な顔をしていたが、すぐに表情を元に戻して輝夜たちの方へと向き直った。
「それでは、また何れかの機会でお会いしましょう」
「そうね、でも咲夜。次は、客人としてここにいらっしゃいな。
 次は私たちがもてなしてあげるわ。ねえ、永琳」
「……ありがとうございます、輝夜さ……いえ、ありがとう。輝夜」
「その時は私も呼んでよね……せ、折角友達になったんだから」
 アリスは輝夜の顔を見ずにそう告げた。
その言葉を聞いて、輝夜は満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
「ええ、もちろんよ!」
「こ、このまま長居しても何だし、そろそろ本当に行くわ。それじゃあね」
 アリスはそのまま顔を誰にも見せないように永遠亭から飛び出して行った。
だが、屋敷を出る瞬間、この場にいる全員にはアリスの顔が真っ赤に染まっていた事が
簡単に予想できていた。後ろ髪の隙間から見えていた首筋部分までもが赤く染まっていたのだから。
「それじゃあ、私もそろそろ行きます」
「あ、そうそう。戻ったら貴方の主人にありがとう、と伝えておいて貰えるかしら」
「了解しました。それでは」
 最後に深々とお辞儀をして、咲夜も永遠亭を後にしたのだった。
「はあ〜、何だか今になってどっと疲れが出てきたような気がするわ」
 輝夜は大きなため息を一つ残して、その場に座り込んでしまった。
「ほら、座るなら自室か客間に戻ってから」
 永琳は輝夜に部屋に戻るように促してから自室へ戻ろうとした。
「ねえ、永琳。地上の妖怪達ってみんなあんなのばっかりなのかしら」
「そうですよ。まああのメイドは人間ですが」
「そっか……ねえ、今度村に薬を売りに行くとき私も着いて行っていいかしら?」
「ええ、もちろんですよ」
「そう、ありがとう。永琳」
 そう言って永琳に見せた輝夜の表情は、今までに一度も見たことのない、
まるで遠足を楽しみにしている子供のような幼い笑顔だった―――




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