薄暗い空の下。何も無い球場のスタンドで。俺たち二人は、口付けを交わした―――

    第7章

「ちょ!? キョン!! 何するのよ!」
 そう言ってもの凄い勢いで俺との距離をとるハルヒ。この一瞬でそこまで離れるとは流石だ。
 いや、そうじゃなくて。さっきお前もしたじゃないか。なら、これでおあいこだろ?
「そ、それはそうなんだけど……」
 段々と語尾が小さくなっていくハルヒ。普段ならば、取立屋のごとく罵詈雑言を浴びせてくるだろう。
 だが、今はそんな事はせず、ただ赤くなって俯くのみであった。時折こちらをちらちらと覗き見しているのが伺える。
向こうは気付いているとは思ってはいないようだが。
 ってことは、だ。さっきの俺もあんな感じだったのか。うわ、自分でしているのと他人がしているのを
見るのでは大違いだ。元の世界に戻ったら、なるべく気をつけるようにしよう。挙動不審者として捕まっても
文句は誰にもいえそうにない。
 話が脱線しちまったが、ともかく。俺はもう後には引けない。自分から行動を起こしてしまったのだ。
ここで引いてしまってはもうあの部室には戻れない。それに、ここはハルヒの夢の中、
ということになっている。ここで何をしようとも、あっちに戻った時にハルヒは夢の中での出来事として
片付けるに決まっている。何だ。そう思うとかなり気が楽じゃないか。ほら、あの俯いているハルヒの
両肩を取って、そのまま押し倒し、服を脱がせる。そこからはもう成り行き任せだ。成る様になるさ。
 だが、例え頭の中ではそう思っていたとしても、実際に身体がその通りに行動するはずも無く―――
結局は俯いているハルヒを見つめる、という構図に変化は無かった。……ああ、俺の意気地なし。

「おい」「ちょっと」

 せっかくの俺の度胸いっぱいの声がハルヒと被ってしまった。顔が熱くなる。何故か気まずい。
 というか、一体何なんだ? この甘酸っぱい妙な雰囲気は。まるで付き合いはじめのカップルみたいじゃないか。
そんなこと、考えるだけでぞっとするね。
「その、何だ。取り合えずお前から言ってくれ」
 実は声を掛けたのはいいが、別に話題を何か考えていた訳でもなかったので、ハルヒの話を先に聞いておこう。
「うん……あのさ。 もっかいだけ、確認するんだけど……これは、本当に夢、なのよね?」
 今のこの状況が不安なのだろう、ハルヒは何度もしつこく『夢』と言う部分を強調して聞いて来る。
「さっきから何度も言ってるだろう? これは、お前の見ている夢だ。断じて俺の夢や、現実なんかじゃあない」
 そう断言する。変な情報を与えてしまってはこれからどうなるか解ったもんじゃない。 
「そう、だよね? 別にあたし達二人だけが突然異世界に飛び込んじゃったわけじゃないのよね?」
 ……さらっと確信をついてきやがった。まったく、変なときにこいつは鋭いな。それでもその事実を信じきれない
ために、今俺たちはこんなところに閉じ込められているわけなのだが。
「いや、そんな事はないな。ところで、もしそうだとしたらどうだって言うんだ?」
「何にも。ただその確認をしたかっただけよ。特に深い意味なんか無いわ」
 そしてまた、沈黙だけがその場を支配する時が訪れてしまった。無為な時間だけが過ぎていく。
さっきまでのほろ苦甘々カップルのような雰囲気から一転、今では倦怠期を迎えた夫婦のような空気が流れている。
 なんだろうか。この激しい空気の変わりようは。ここからどうやってハルヒと事を起こせと言うんだ。
 ………全く。どうしてこんなに俺が頑張らなければいけないのか、まったく。
 盛大にため息を吐きつつ仰向けに寝転び、空を見上げる。どんよりと曇った空。青空のカケラも見えやしない。
――余計に気分が滅入って来るな、こんちくしょう。どうして俺はこんなところで初体験を迎えようとしているのだろうな。
身体を起こし、グラウンドにあるダイアモンドを見ながら耳を澄ます。―――何の音も聞こえない。
ただ聞こえるのは、俺とハルヒの息遣いだけ。……そろそろいい頃合だろう。いいかげん現実を見つめなおさなくては。
これから、俺はきっと、いや確実に後戻りの出来ない道を進むことになるだろう。
 だが、それをしなければあの俺が見守っていないと危なっかしい未来人や、本好きで物静かな宇宙人に
二度と会えなくなってしまうからな。ついでにその中にテーブルゲームと説明好きな超能力者のことも追加しておいて
やっても罰は当たるまい。そうして、俺は遂に決意し、息を吸い込みハルヒにこう言った。
「なあ、ハルヒ。改めて確認しておく。これは夢だ。言い換えればお前の願望が多少なりとも入っているかもしれない。
 だから、もしこの夢から覚めた時、お前の前に居る俺はこの俺とはきっと別人だ。それだけは、解っていて欲しい」
 ハルヒは不可解な顔をして、言った。
「は? 何が言いたいっての?」
 そのままの意味で取って欲しい。で、これからが大事なんだ。
「な、何よ。急に改まったりなんかしちゃってさ。あんたらしくないわね」
 ハルヒ……。 俺は、お前のことが……好き、だ。
「は!? ちょ、な、えぇ!!?」
 驚きが隠せない様子のハルヒ。当たり前か、いきなりそんなこと言われたら俺でも驚く。
だが、今の俺はいつもの俺ではない。ここでハルヒの反応をいちいち待っていたらまた好機を逃してしまう。
ハルヒに考える暇を与えてはいけないんだ。その前に、全てを終わらせなくては。
 そうすれば、この世界から脱した時……このことを本当の夢だと思い込んでくれるだろうしな。
 と言うよりも、それ以前に勢いをつけないと俺自身躊躇ってしまう。
 そう結論した俺は、ハルヒに告白したあと、思いっきりハルヒを抱きしめた。
「え? ちょ、キョン!?」
 ハルヒはまだ混乱から立ち直っていないようだ。と言うよりも俺が抱きしめた事により更なる混乱を招いたようでもある。
 それにしても……さっきから鼻の周りを揺らいでいるハルヒの髪。普段の生活でもあまり嗅ぐことの無い、
女性特有のものすごくいいにおいがする。身体の大きさも俺の腕の中にすっぽりおさまり、非常に抱きごこちもいい。
「〜〜〜〜!」
 ハルヒは完全に全身を硬直させ、耳まで真っ赤に染めた顔で俯いている。
 というか、俺が抱きしめているから頭は俯かせるしかないのだが。
「……ねぇ、キョン。 さっきのこと、本当?」
 少しずつ、冷静さを取り戻してきたのだろうか。ハルヒは先ほどの確認を取ってきた。
「いや、俺はこんな状況で嘘を言える様な人間なんかじゃあないさ」
 あくまでも、―――ここの俺は―――だがな。
「そう……よね、あんたにそんな度胸ないもんね」
 そりゃあ悪かったな。で、お前の答えがまだなんだが。
「へ!?」
 いや、俺だけがお前にこの胸の内を伝えておいて、はい、おしまい―――は無いだろう。
「そ! そんなの、あんたが勝手に言っただけじゃない!それに、あんたには前に言ったと思うけど、
 あたしにとって一時の恋愛感情なんて言うのは精神疾患の一種なのよ!」
 なんとか埋もれていた顔を出す事に成功したハルヒは俺の顔を睨みながら捲し立ててきた。
ただ、未だに耳の先まで真っ赤に染まっているのは戻せなかったらしい。
 普段の俺ならここで煙に巻いたりするのだろうが、ここで茶化しては今までの苦労が水泡に帰してしまう。
 それに、さっきの俺の言葉……本当に嘘偽りは無いようだしな。全く、いつからこいつなんかの事を―――
 ……ふう。こんな事を考えていても仕方ないな。こっちの心の準備は出来た。さて、ではそろそろ核心に迫らせていただこうか。
「ああ、確かにそう言っていたな。だが、俺はその病気に掛かっちまってるんだ。
 だから、お前の答えを待っている。お前がYESかNOか。はっきり言うまでお前を放さない」
「っ……!! そんなのずるいっ!!」
 自分でも解ってるさ。それを承知で今お前を抱きしめている。それだけ本気だってことだ。
 俺がそう言った後。ハルヒは、また俺の胸に顔を埋めた。まだ答えが出るには時間が掛かるようだ。
 さて、この状況が吉と出るか凶と出るか。長門が言うには、この世界を脱するにはハルヒと繋がらなくてはならないらしいが……。
 もし、ここでこいつにこの告白を拒否されてしまったら、どうすればいいんだ?
 ………しまった! その事をすっかり考えていない! 断られてしまったら…どうすればいいんだ……。
 このまま嫌がるハルヒを強姦でもするか?

  『ゴルァ! 泣いても叫んでも誰も来ちゃ来んねぇよ!!』
  『きゃぁ! や、やめなさいよ、この馬鹿キョン!!』
  『こんな状況で誰がやめるってんだよ!』
  ビリビリビリ…!!
  『いや!!』
  『ふっふっふ。泣いても喚いても誰もこんなとこまで誰もこねえよ! では、この美しい身体のハツモノ。 いっただっきまーす!』
  『やだ…いや、やめて〜〜〜〜〜!!!!』


 ―――それもいいかもしれないな。 
 だが、俺にハルヒを組敷く、なんて真似が出来るのだろうか?
 まあその時はその時だ。それに、よくよく考えればハルヒが本気で抵抗すれば、俺はこいつをずっと抱きしめる事なんて出来ないような。
「…ョン! ちょっと、キョン!! 聞いてるの!?」
 え? なんだ? 何か言ったか?
「はぁ!? あんた、さっき自分が何言ったか覚えてる?」
 えーと…確かお前に告白して、その返事待ち、だったよな?
「ふ〜……。 ほんっとにどうしてなのかなぁ。 こんなやつの事…」
 ん? 何だ? 何か言ったか?
「!! な、なんでもないっ! じゃ、じゃあ、一度しか言わないからしっかりと聞いときなさいよ!」
 ああ。俺はいつでも準備はバッチリだ。
「さっきまで人の話全然聞いてなかったくせに何言ってるのよ」
 ……まあ、それはそれだ。気にしないで続けてくれ。
「―――はぁ。 えっと、あ、あたしもよ」
 ……え?
「い、一回しか言わないって言ったからね! も、もう言わないわよ!」 
 それって、つまり…… OKって事だよな?
「し、知らないわ!」
 そう言って、また埋まるハルヒ。
 さっきまでは特に何も思わなかったが…何故だか、今はその行動がものすごく可愛く思えてしまうのは何故だろうか。
「ハルヒ」
「…なによ。もういいでしょ。放して」
 そういう事は俯いて言う事じゃあない。しっかりと顔を上げて言わないとわからないな。
「………」
 なあハルヒ? 
「あぁ、もう!! ちょっとだけでもそっとしといて!」
 そう言って、俺を睨むハルヒの顔は、さらに茹ダコの様に茹で上がっていた。
 だが、その赤い顔に一筋の雫が流れている事に気付いてしまった。
 おい、ハルヒ? お前もしかして、泣いてるのか?
「な、泣いてなんか……え? どうして?」
 自分でも気付いていなかったのだろう。ハルヒは自分の目を擦り、濡れている事に戸惑っている。
「え? な、なんで? どうして涙が止まんないのよ…」
 ハルヒ……
「べ、別に嫌って訳じゃないんだからね?! 勘違いするんじゃないわよ」
 変なところで強がるハルヒ。そんなハルヒが、今はとても愛しく感じる。
 自分の気の持ちよう一つでこんなに変わってくるものなのか。この世界だけの関係だとしても勿体無いことだ。
 だが、この感情および、関係を元の世界に持ち込んではいけない。これは、この世界の―――いや、
ハルヒの夢の中だけなんだ。
 そう考えると、胸が苦しくなってきた。まるで縄か何かに押さえつけられているかのように。
「キョン? あんた……」
 ハルヒが俺の顔をじっくりと見ている。
 ん? 何だ? 何かついてるか?
「…………ほら」
 俺の頬を撫ぜたハルヒの指の先は、何故か濡れていた。ということは原因は一つしかない。
 俺も、いつの間にか涙を流していたらしい。ハハ……何だ。人のこと、言えないな。
「ホントよ。全く……」
 そう言って、俺たちは二人見合って笑い始めた。自然と込みあがってきた笑いは二人とも
抑えることは出来なかった。ひとしきり笑い合ったあと、俺は再度ハルヒを抱きしめ……
「ハルヒ…」
「キョ…んむ」
 三度目の口付けを交わした。

 

 本日3回目―――前のやつも合わせると4回目か―――のキスは、一番柔らかく、甘く感じる気がした。
 と言うよりも、本当に甘かった。
 今しているのは、今までのあわせるだけの口付けではなく、俗に言う『大人のキス』というやつだ。
「あむ、んん、んにゅ、くちゅ、ぷはっ」
 よくアヒル口になっているのを見かけるその唇は、思っていたよりもとても小さくその中に潜んでいた舌は、
まさにトロを含んでいるかの錯覚を覚えるほど柔らかかった。
 口の中全てにハルヒの味を堪能し、一度口を離す。
「……へんたい」
 いきなり何を言う。失礼なやつだ。
「あんたの方が失礼よ! いきなりあたしの口を奪ったかと思えば!! その、し、舌なんか、入れてきて!!」
 リンゴ顔のハルヒがもの凄い勢いで抗議してきた。だが。それを黙って聞いているような俺ではない。
元の世界だったならどうかわからないがな。それはそうとお互いの気持ちを分かち合ったばかりの男女が
こういう事をすることは普通のことだと思うんだが。
「普通じゃない! まったく、あんたにはロマンっていうのを一から教えないといけないわけ!?」
 失礼だな。俺にだってロマンくらい解るぞ。
 夜遅く、仕事で疲れ果てて居る時に玄関を開けると新妻が『おかえりなさい、あ・な・た。』とか何とか。
「やっぱりバカね。 そんな事を聞いてるんじゃなくて……まあいいわ。 あんたには何言っても無駄だろうし」
 そう言ったハルヒは俺の腰に腕を回し、俺の胸に顔を当て呟いた。
「責任……取ってよね。 あたしを、こんな感情にした、責任―――」
 ……ああ。 これで逃げるやつ何て男じゃないさ。
 ハルヒの頭を撫でながらそう答えてやった。
 それに、声に出しては言えないが……さっきから何度もしているキス。頭を撫でる度に香ってくるハルヒの
髪の匂い、さらに軽く抱きつかれている感触によって俺の理性が著しく蝕まれている。正直な話、このままだと
5分も持たずに理性は崩壊するだろう。さらに言えば、この好機を逃すともうこんな流れは来ない気がする。
 これが事実上あの世界に帰る最終のチャンス……なんだろうな。
 ―――少しずつ、気持ちを整理していく。
 初めはあの世界に帰りたい一心だった。理由がどうあれ、ハルヒとコトを致す事には変わらない。……それに、
好きな女の子との最中にそんな野暮なこと、考えたくもないしな。行為中には、ハルヒのことだけを考えていたい。
それが、アンフェアーなこの状況の中での唯一のフェアーな事だと信じていたいから。
「キョン?」
 手が頭の上で止まっている事を不信にでも思ったのかハルヒが顔を覗き込んでいた。
「いや、別になんでもないんだ。気にしないでくれ」
 そう言って俺はハルヒの首筋あたりに顔を近づけた。当たり前だがさっきよりもハルヒのにおいがする。
まるで、麻薬のように、俺の神経を侵していくのを感じるようだ。そのまま頭に置いていた手を少しずつ下げていき、
肩に手をおいた。いや、肩なんかはまだ通過点にしかすぎない。さらに手を下ろし、脇に手を差し込む。
「ちょ、く、くすぐったい…」
 ハルヒがすこし身じろいたが気にせずその手をハルヒの身体に沿わす。
 俗に言う(…のか?)横乳という場所を手の平で感じる。バニーの時から思っていたがやっぱり
スタイルいいな、こいつ。ちなみにさっきから開いている左手の方は、ハルヒの肩に回しハルヒの姿勢を安定させている。
「ん! む、むぐぅ!!」
 ………もっと可愛い声を出せないのか。おまえは。『む、むぐぅ!』 なんて喘ぎ声初めて聞いたぞ。
「んー!! んむーっ!!」
 きちんと話せ。 それに今は触ってないぞ。
 ん? そういやハルヒ。どうしてさっきから俺の胸から離れないんだ。
 そんなに俺のむねg……ぐあっ! な、何しやがる! いきなり左腕を殴るんじゃない!
「ぷはっ! ぜー、ぜー…… も、もうちょっとで窒息するところだったわ……。あんた、わざとやってるでしょ!!」
 肩で息をしながら今日一番の剣幕で俺にかかってくるハルヒ。
 失礼な。俺がそんな事をするとでも思っているのか。
「あんただからすると思うんじゃないの。そんなくだらないこと、あんた以外にするやつが居ると思ってるの?」
 谷口ならするだろうな。つーかあいつ以外に思い浮かばん。
「キョン。あんたも同類よ! ほんっとにもっとこう……」
 もっとこう、何だ?
「やめとくわ。 あんたに期待するあたしがバカなんだから」
 とても深い溜息を吐きつつ何処か遠い目をして、そんな台詞を吐くハルヒに俺は……俺は、何をしてやればいいんだ?
 ……まあ、いいか。どうせこいつの勘違いだろう。違ったとしてもだ。ここでの事は無かった事になるので問題はないだろうしさ。
「ところでさ。 いつまでこうしてればいいのかしら」
 未だにハルヒの左脇を離れていなかったらしい右腕を引き外し ついさっき殴られた左腕を擦る。
「………このままやめてもいいんだろうけど、なぁんか癪なのよね。あんたには黙ってたんだけどさ。
 ちょっとだけ、身体の中、火照っちゃってて」
 そう言いつつハルヒは、
「その、さ。 続き―――しよっか?」
 と、なぜか上目遣いで俺に強請って来やがった。オマケに頬をほんのりと染めてだ。
 こんな表情で誘われているのに断れる男が何処に居ようか?!
 俺も、一正常な男子の一人であるからしてそんな誘惑に勝てるはずも無く。
 あっさりとハルヒのお願いを聞いてしまうのであった。
 ―――まあ。俺にとってもこのままお流れにしてしまうわけにもいかなったので願ってもないことであったのだが。

「ねえ、本当にここでするの?」
 ハルヒが不安そうな顔で訪ねてくる。
 実際に不安なのだろう。なぜなら、さっきと全く場所は変わっていない。 
 つまり、観客席のど真ん中。(この球場はスタンド席ではなく、芝の斜面なので問題はない。)
 残念ながら、さっき建物の中を一通り見たが、事を起こすのに都合のいい部屋は一つもなかった。
それで仕方なく、この何もない、本当に何も無いこの場所を選んだ、というわけだ。
「……何か釈然としないけど…まあいいわ。誰か見てるわけでもないし」
 そう言いながら、ハルヒは早速上着を脱ぎ始めた。
「何ボケーっと突っ立ってんのよ。あんたも早く脱ぎなさい!あと、あたしがいいって言うまで
 死んでもこっちむいちゃダメだからね!」
 なら何の前触れも無く服を脱ぎ始めるなってんだ。
 声には出さず、心の中だけでしまっておく。今更言っても仕方ないしな。
「ねえ、こっち向いても良いわよ」
 思ったよりも早かったな。
「服を脱ぐだけでしょ? そんなのに時間なんか掛からないわよ。それともあんたは服の着替えに1時間も掛けるの?」
 そんな事無いわよね? と言う意味の視線を俺にくれてやがるハルヒの表情は怒っているのか、照れているのか。
はたまた呆れているのか良くわからない微妙な顔をしていた。きっと今上げた感情全てを表現するとあんな表情に
なるんだろうな。他のやつにはマネできまい。
 それはそれで置いておくとして。いいかげん俺も服を脱ぎ始めなくては。ハルヒがマジで切れそうになってきた。
激怒寸前のハルヒの格好は、ブラ&ショーツと言うごくごく一般な下着姿だ。薄い水色が何処と無くハルヒっぽさを
醸し出しているような気がする。
「…じろじろ見るな! それよりも、早く脱ぎなさーい!!」
「うおっ!?」
 俺のあまりにも遅い行動のせいでハルヒの待機ゲージがなくなったらしい。
 じりじりと俺の方に近寄って来るや否や。何と、俺の服を脱がし始めやがった!
 ハルヒの表情はあろう事か喜色満面。俺の上着を引き剥がしつつ、何かを楽しんでいるようである。
 まあ、その何かって言うのは明らかに俺の服を脱がす行為なのであって、それ以外の要因は全くの皆無と言えるだろうな。
 って、コラ! ちょっとまて!! 服が破ける! おわっ、袖を引っ張るな! 伸びるだろうが!!
「さっさと脱がないキョンが悪いのよ! さ〜て、あと一枚♪」
 上着、Tシャツ、ズボンを引きずり下ろしたハルヒは、手をにぎにぎしながら俺のマイサンを辛うじて護ってくれている
トランクスに標準を合わせている。
 まずい、このままでは俺の尊厳がズタボロにされてしまう…!!
「無駄な抵抗はやめなさい! えいっ」
 ハルヒの簡単な掛け声の後、もの凄い勢いで引っ張られていく俺のラスト・ディフェンス。俺の力でも抵抗できなく、
あっけなくハルヒの手の動きにあわせて定位置から下がってゆく。
 ああ……何故かデジャブを感じる。だが、俺はまだ脱がされる経験なんてこれが初めてだ。というかこんな経験
2度としたくないね。なら一体何処でだ?
 ふと、朝比奈さんの愛らしいメイド姿を思い浮かべた。ああ、そういう事か。もう一年ほど前になるだろうか、
朝比奈さんの初コスプレの日だ。確か長門が隅で本を読んでいて、ハルヒが嬉しそうに朝比奈さんを脱がして
いたんだっけか。
 朝比奈さん。今ならあなたの気持ちが痛いほどわかります…
 などとくだらない事を考えている内に、ハルヒの手の中に俺のトランクスが納まっていた。
「へえ……これが、キョンのか……」
 そしてあろう事か俺のマイサンをじっくりと観察してやがった。
 こら、いいかげん離れろ! それとそんなにしげしげと見るんじゃない。
「何よ、あんたが遅いのが悪いんじゃない」
 それはいい。認めよう。だが、このままじゃ不公平だ。
 どうして俺が全裸にされておきながら、お前はまだ下着を残しているんだ。
「べ、別に良いでしょ? こ、これくらい……」
 ちっとも良くないな。おっ。じゃあハルヒ先生に服の脱ぎ方の見本を見せてもらおうか。
「な!?」
 俺に脱げ脱げ言っておいて自分が脱げないっていうんじゃ無いだろうな?
「そ、それは…」
 顔を真っ赤に染めて俯いてしまったハルヒ。
 ……やりすぎたか? いや、ここで引いては俺の脱がされ損ということになってしまう。ここでこそ一矢報いねばなるまい。 
 脱げないのなら手伝ってやってもいいぞ?
「!! いい! じ、自分で脱げるわよ! これくらい…」
 言い終わった後ハルヒは、一度だけ大きく深呼吸をしたあと、背中に手を伸ばし、ブラのホックを外した。
 『プチン』と言う音と共に、今までブラによって支えられていたハルヒの乳房がその質量によって大きく弾んだ。
「あ、あんまり見ないで!」
 俺のをあんなにじっくり見ておいてそれは無いだろう。
 諦めたのかハルヒは、左手で胸を隠しつつ、ブラを地面に置いた。
 そのまま右手をショーツに引っ掛けると、『うぅ…』という小さな呻き声と共に勢いよく足元に向け下げていった。
 ………。
 声が出なかった。自分が息をしているのかどうかさえ自信がないね。
 ハルヒの裸体に目が釘付けになっている俺は、一体どんな間抜け面をかましていたのかは定かではない。
 って言うか知りたくも無い。
「ほ、ほら! これで文句ないでしょ!!」
 大事な部分を必死に隠しつつ、羞恥心を誤魔化すように大きな声を上げるハルヒ。
 だが、両腕だけで全てが隠れきるわけでもなく、その細い腕の間から垣間見える豊かなふくらみが俺の理性を少しずつ
溶かしていくのを感じる。
「何ぼけーっとしてるのよ」
 いつの間にか俺の隣に腰掛けていたハルヒが、俺の瞳を覗き込んだ。
「うわっ! すごっ…… こんなになるんだ………」
 直後。その言葉とある刺激で俺は我に帰った。俺はハルヒのことばかり見ていて、自分の大事なところを
隠すのを忘れていたようだ。それに目をつけたハルヒが、いいおもちゃを見つけたと言わんばかりにそこに近づいていく。
 ちょっ、ま、まて! それはシャレにならん!
 ハルヒの小ストリップショーを拝見した後だ。俺のイチモツは臨戦態勢とまでは行かなくても、エネルギーが漲っていた。
それをこいつは興味本位で弄りだしやがった。その刺激と、目の前にあるハルヒの形のいいヒップのラインが
俺のムスコを一段と強くたくましく成長させていく。それに加え、ここ最近自分で弄くったりしなかったもんだから、
その刺激に耐えられるわけも無く―――
「きゃっ!?」
 子供が出来る元を勢いよく放出させる結果となってしまった。
 ハルヒが全裸になってからまだ5分も経ってはいない。早漏なんて思われていないだろうか?
「もう! べとべとじゃない! 気持ち悪い…」
 結構な勢いだったらしくハルヒの手だけではなく、お腹周りや胸にかかっていたようだ。
「さて、今度は俺の番だな」
「え? ちょっと!?」
 手や身体についた俺の精液が気になっていたハルヒは俺の行動を全く気にしていなかったらしく、いきなり
仰向けに押し倒しても抵抗は全く無かった。
 ハルヒが我に返ったとしてももう時すでに遅し。俺は仰向けになっているハルヒに覆い被さっている。では、
お返しにハルヒのをじっくりと見物させてもらうぞ。
「こら、やめなさい!」
 だから、自分だけしておいて俺はお預け、何てのはさせないさ。
 その言葉の後、ハルヒが少しだけ大人しくなった気がした。多分気のせいだったと思うが。さて、
ではハルヒはどうなってるんだ?
「コラ! ちょっ!?」
 脚を思いっきり広げてやって、ハルヒの脚の付け根にある女の部分を観察する。
「ん?」
 何だ? 中が湿っているのか?
「!! ダメ!」
 指をあてがってみた。指の先に粘り気のある液体が付着していた。
 もちろん、俺がさっき出したやつなんかじゃない。ハルヒ自身から沸き出始めているのだ。
 ハルヒ、お前。さっきので興奮してたのか。
「そ、そんなこと…!!」
 あるさ。ならこの指の先についてるこの液体は一体何なんだ?
「そんなの知らない!」
 あくまでも白を切るんだな。まあ別にどっちでもいいんだが。
 俺は、割れ目の先の小さな突起に目をつけた。少し指で擦ってみる。
「ひ!? や、ぁ!!」
 感度は抜群のようだ。ちょっと擦っただけでこの反応。さらに膣内から愛液が段々と湧き出してくる。
「はぁ、はぁ……や、めて…んぅ!!」
 うん。この調子だともう入れても大丈夫そうだな。いくぞ、ハルヒ。力を抜いておけよ。
「え!? も、もう!? あ、あ…な、何か、はいってぇ!!」
 先端がハルヒの中に埋まっていく。ハルヒの膣内は、狭かったが、キツ過ぎるわけではなかった。
「あぅ、ん、は、はぁ、くぅぅ…」
 ゆっくりと、だが確実にハルヒの奥へと進んでいく。
 途中、何か薄い壁のようなものに突き当たる。
「ハルヒ。 本当に良いんだな?」
「はぁ…はぁ…。な、何を今更言ってるのよ…。こうなったら最後まで責任取りなさいよね」
 息絶え絶えながらもまだいつもと同じように話せるハルヒを少し尊敬しつつも、
 このまま入れているだけでいつ達してもおかしくない状況を脱するために、腰をさらに前に突き出す。
「くうぅぅぅ!!!」
 その壁を突き破り、まだまだ奥へ進んで行く。
 やがて、厚い壁に当たった。その壁も伸縮を繰り返しているような動きを感じる。最深部にたどり着いたようだ。
「ハルヒ…今、一番奥まで入ったぞ」
「んん…み、みたいね。 はぁ…結構痛いもんなのね」
 男の俺にはその痛みは共感できないな。大丈夫だったか?
「ん。 今は結構平気かな。 入ってきてからちょっと時間経ってるし」
 ちょっとって…まだ2、3分も経ってないだろ? 痛いなら痛いって我慢しないで言えよ?
「……うん」
 頷いた後、ハルヒは少しはにかんで
「もう動いても大丈夫よ、ずっとそのままでいるもの辛いでしょ?」
 お前に比べればだいぶマシさ。じゃあゆっくり動くぞ。
「うん……んん!!」
 ハルヒの顔はまだ少し苦痛に歪んでいる。
 だが、今の俺にはどうする事も出来ない。せめて、この行為が少しでも早く終わるようにするくらいしか…
「ああ。ひ!? は、はぁ、ふぅー」
 少しずつすべりが良くなってきている。
 ハルヒの膣内が本格的に濡れ始めているのだろう。俺が腰を動かすたびにくちゅくちゅと言った
水の音が聞こえるように鳴ってきていた。
「あ、あ、な、何か! むず、痒くてっ! 気持ち、いいぃ!」
 スムーズに動けるようになったハルヒの膣内は、まさに俺の為にあるかのような錯覚に捕らわれるほど、
俺のモノを優しく、強く包み込んでいた。
「は、ハルヒ! も、もう…!!」
「あ、たしも…ダメ……かも」
 ハルヒが軽い痙攣を起こし始めている。もう頂点が目に見えているのだろう。
 そう言う俺ももう1分も我慢できない。ハルヒより先に果てる前にラストスパートだ。
「あ、あ、や、だ、めぇ、!! っくぅうぅぅぅ!!」
 ハルヒの声にならない叫び声とほぼ同時。膣内がもの凄い収縮をし始めた。
 それにあわせて、俺も溜め込んでいたものをハルヒの中に全て解き放っていた。
「ああ……お腹の中に何か入ってくる…」
 ふう、ふぅ、ふー。呼吸を整え、ハルヒから俺のムスコを引き抜く。
「あ…れ……?…」
 それからすぐ、世界が白一色に包まれていた。俺が意識を失ったのか。あるいは世界が存在を消したのか。
 どちらが正しいのかは解らなかった。



「―――ョン! コラ! おきなさい!!」
「いてぇっ!?」
 頭がズキズキする。おい、ハルヒ。その手にもっている棒切れは何だ。
「いくら呼んでも起きないあんたが悪いのよ!」
 ここは……? 桜並木の公園のベンチ、か?
 一体俺はどうしてたんだ?
「あたしにもよくわかんないんだけどね。気が付いたらこのベンチで眠っちゃってて」
 それでお前の方が先に目が覚めて、俺を文字通り叩き起こしたって訳か。
 それにしても、そんなもんで殴られたら起きる前に永眠しちまうぞ!
「あんたなら大丈夫よ。それよりも、早くさっきの場所に行かないと集合時間に間に合わないわよ!」
 何! もうそんな時間なのか。 もう俺は奢るのは嫌だぞ!
「なら、さっさと来る! ほら、行くわよ!」
 そう言ってハルヒは俺に手を差し出した。俺は何の躊躇もなくその手を掴み、一緒に走り出した。
「コラ! ちょっと、引っ張んないでよ!!」
 ふと桜並木を見上げると、今にも咲こうと栄養を溜め込んでいるつぼみがたくさん目に入ってきた。
 長い冬は、もう終わりを告げるようだ。
 これから、新しい季節が始まる。別れ、そして出会いの季節。―――春と言う季節が。

「ハルヒ」
「何? 急に止まったりして」
―――これからも、ヨロシクな。


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